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横浜地方裁判所 昭和58年(行ウ)20号 判決 1992年1月29日

原告 斉藤明 外三名

被告 東戸塚品濃中央土地区画整理組合

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告が原告らに対し、別紙物件目録記載の土地について、昭和五七年四月二六日付けでした換地処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、土地区画整理事業において仮換地の指定を受けた原告らが、新一開発興業株式会社(以下「新一開発」という。)と仮換地交換の合意をし、被告に対して仮換地交換願い書を提出したので、被告が願い書の趣旨に沿って換地処分をしたところ、原告らが、(1)換地処分は仮換地交換に関する合意ないしは原告らの効果意思に合致しない(すなわち、仮換地交換の合意によって交換された土地と異なる土地を換地に指定されたこと、仮にそうでないとすれば仮換地交換契約は錯誤により無効であることを理由とする。)、(2)照応原則に違反すると主張して、その取消を求めたものである。

一  争いのない事実

1  原告らは、横浜市戸塚区品濃町西ノ谷六三二番・田三二〇平方メートル(乙三七、以下「従前地」という。)を持分各四分の一の割合で共有していた。

被告は、土地区画整理法に基づき、横浜市戸塚区品濃町一帯の土地区画整理事業を施行した。

2  従前地については、別図一のとおり、三四街区(「街区」のことを「ロット」ともいうが、以下、原則として「街区」という。)の斜線部分三二一平方メートルに仮換地が指定された(当初、別図二のとおり三五街区の斜線部分に仮換地が指定されていたが、当該部分は、昭和五三年一二月五日設計変更により三四街区となった。以下、原告らが仮換地の指定を受けた三四街区の部分を「仮換地A」という。)。

3  原告斉藤明(以下「原告明」という。)は原告らを代表し、新一開発との間で、昭和五六年三月、仮換地Aと三三街区内の土地三九六平方メートル(以下「仮換地B」という。ただし、仮換地Bが三三街区内のどの部分であったかについては、後記のとおり争いがある。)とを交換する契約をした(以下「本件仮換地交換の合意」という。なお、新一開発が原告らとの交換に供した土地は、昭和五六年三月の本件仮換地交換の合意の時点においては被告所有の保留地であり、厳密にいうと仮換地ではなかったが、被告は、右保留地と新一開発が他の部分に指定を受けた仮換地とを交換することを既に承諾しており、交換当事者も仮換地交換という認識だったので、以下においても「仮換地交換」ということにする。)。

原告明は、昭和五六年三月一九日付けで、被告に対し、「私所有の三四ロットの土地を三三ロットの場所へ交換したいので御承認願います。」と記載した仮換地交換願いと題する書面(乙二)を提出した(以下、この書面を「仮換地交換願い書」といい、この書面をもってされた行為を「仮換地交換願い」という。)。

一方、新一開発も被告に対し、同日付けで「私所有の三三ロットの土地を三四ロットの場所へ交換したいので御承認願います。」と記載した仮換地交換願い書(乙三)を提出した。

4  被告は、その後換地計画を作成して、昭和五七年三月七日の第二〇回総会において承認の議決を得、二週間の縦覧に供したうえ、同年四月二四日、横浜市長の認可を受け、同月二六日付けで、原告らに対し、従前地に対する換地として、別紙物件目録記載の土地(別図三甲部分。以下「甲地」という。)を指定する換地処分(以下「本件処分」という。)をした。そして同年五月八日、同市長の公告がされ、換地計画が確定した(なお、従前地、仮換地A及び甲地等の位置関係は、別図三のとおりである。)。

5  原告らは、昭和五七年六月一五日、横浜市長に対し、本件処分の取消を求めて審査請求をしたが、昭和五八年四月一九日、右請求は棄却された。

二  原告らの主張する違法事由

1  本件処分と仮換地交換願いとの不一致

(一) 本件仮換地交換の合意は、仮換地Aと別図三乙部分(以下「乙地」という。)とを交換するものである。したがって、原告明は、仮換地Aを乙地と交換する趣旨で仮換地交換願い書を提出したものである。然るに、本件処分は、乙地と異なる甲地を換地とするものであって、仮換地交換願いと換地処分とが一致しておらず、本件処分は本件仮換地交換の合意(それに基づく仮換地交換願い)の内容と異なるものである。

(二) 仮に甲地が交換の対象地であるとするならば、本件仮換地交換の合意は、原告明の錯誤に基づくもので無効であり、それを前提とする仮換地交換願いも無効である。

2  本件処分は、従前地との照応を欠き、土地区画整理法八九条一項に違反する。

三  被告の主張(本件処分の適法性)

1  本件仮換地交換の合意において新一開発が交換に供した仮換地Bは、甲地であり、このことは、本件仮換地交換願い書の記載自体から明白である。すなわち、三三街区は、南北に細長い四角形であり、北方の駅前広場部分と南方の甲地側とに分けられるが、原告明の提出した仮換地交換願い書の添付図面(乙二)においては、三九六・〇〇の数字の右側(図面を横長に見て)が完結して描かれているのに対し、左側には二本の線が延びていて、完結しておらず、完結していない方向が駅前広場側である。

被告は、仮換地交換願い書が提出されたのを契機として検討のうえ、右仮換地交換願い書に記載された合意内容を尊重し、これに沿うように換地処分したものであるから、本件処分は適法である。

原告明は、三三街区の状況等について十分把握していたものであり、交換に供された仮換地Bの位置について錯誤があったとはいえない。

2  照応原則について

(一) 照応の原則に合致するか否かは、従前地については工事着手前の状況を、換地については工事概成時の状況をそれぞれ評価し、位置、地積、利用状況、環境等に関し、通常人が考えて、両者が大体同一条件にあると認めることができるか否かによって判断すべきである。本件処分は、換地と従前地とが照応するように定められているというべきである。

(二) 本件における従前地と換地(甲地)の状況は、次のとおりである。

(1) 従前地

従前地の地目は田であり、公簿上の面積は三二〇平方メートルであるが、更正地積(実測面積)は、四四四・二四平方メートルである。

従前地は、東戸塚駅東方約三〇〇メートルの位置にあり、周囲は山林に囲まれており、段々田の状態であった。南西側の一面が巾員約二・五メートルの道路に接する農耕地で、五角形の形状をしていた。利用は農耕に限定されていた。

上下水道、都市ガス等の設備はなかった。用途未指定地域であり、仮にこれを住居地とみなしても建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセントである。

(2) 換地(甲地)

<1> 本件処分により原告らに換地された甲地は、三三街区南西の角の三九六平方メートルであり、梯形に近い四角形である。東戸塚駅前広場から約三〇メートル、同駅舎から約六〇メートルの距離にある。上下水道は整っており、都市ガスも引き込みやすい状態になっている。

甲地は、現在南西側一面しか道路に面していないが、本件処分当時は、西側に横浜市の管理する巾員五・六メートルの道路があり、これを利用すると、一分足らずで東戸塚駅に行くことができた。ところが、本件処分後数年を経て、横浜市が右道路を廃止し、駐輪場を設置したため、西側から駅に行くことができなくなり、東側の道路を迂回しなければならなくなったが、それでも、甲地から駅まで、大人が普通に歩いて三分程度である。なお、横浜市が駐輪場建設を決定したのは、昭和六〇年一二月であり、駐輪場設置計画は、換地計画の時には全く予定されていなかったものである。

南西側は、巾員約一三メートルの幹線的道路(旧国道一号線と横浜新道をつなぐもの。)に面している。

甲地は、建ぺい率八〇パーセント、容積率四〇〇パーセントの商業地域に属している。

甲地は飛換地ではあるが、これは、原告らの仮換地交換願いを契機として、これに沿うように換地された結果である。

<2> 甲地の周囲は、被告の事業施行により、駅前広場、道路及び公園等の公共施設が整備改善されたので、利用価値は著しく増進している。甲地は、特にその利益を大きく受ける位置にあって、銀行、医院、オフィス、商業施設、マンション等の適地である。周囲の商店街からの日常生活上の物資の入手についての利便性も増している。

<3> 原告は、甲地が周囲よりも低く、川上川の氾濫の虞があると主張するが、川上川は、甲地南西側の巾員約一三メートルの道路の南西側の道路端の下を流れており、甲地の切り下げ工事等によって同川に影響を及ぼすことはない。また、同川は、道路の下に埋設されたカルバートボックスと呼ばれるコンクリート製の工作物の中を流れるので氾濫等の虞はない。

(三) 従前地及び甲地の権利価額の算定は、東戸塚品濃中央土地区画整理事業の土地評価基準に基づき、路線価式土地評価法によっている。

右評価法による路線価は、金額ではなく指数で表示する。すなわち、土地区画整理事業施行前の最高価額地を一〇〇〇個という指数で表示し、同事業の施行前、施行後を通じてこれと比較換算した指数を各路線に表示する。

原告ら所有の従前地は、路線価指数八四九個と算定された。そして、土地評価基準に基づき補正すべき要件がないので、これがそのまま従前地の単位評定指数となり、この単位評定指数を従前地の更正地積四四四・二四平方メートルに乗じて、従前地全部の評定指数三七万七一九五個を算定し、これに比例率(区画整理後の土地全体の評価額と区画整理前の土地全体の評価額との比率。本件においては、整理後評定指数総計四億八一五〇万三八四五を整理前評定指数総計四億六三三二万八八三一で除した、一・〇三九二二七〇三である。)を乗じて、従前地の比例指数三九万一九五四個を算出した。

比例指数を金額に換算するに当たっては、当地区の指数一個当たりの価格を一九円と定めているので、これを従前地の比例指数に乗じて、従前地の権利価額七四四万七一二六円を算出した。

甲地に面する一三メートル道路の路線価は、一七〇二個と算定され、画地評価に当たっては、土地評価基準上補正すべき部分がないので、これがそのまま画地(換地)の単位評定指数となり、これに換地面積三九六平方メートルを乗じ、評定指数六七万三九九二個が算出され、これに指数一個の価格一九円を乗じて、換地の権利価額一二八〇万五八四八円が算定された。

結局、原告らの所有地は、従前地の権利価額七四四万七一二六円が、換地において権利価額一二八〇万五八四八円となり、価額が増している。

なお、権利価額の算定に当たっては、土地評価基準等に基づき、施行地区内全画地について同一基準を適用して算出したもので、各権利者相互間の平等性も確保されている。

(四) 原告らの換地の減歩率は、従前地の更正地積四四四・二四平方メートルのところ、三九六平方メートルの土地が換地されたため、一〇・九パーセント弱である。平均減歩率は、三九・七パーセントである(事業施行地全体の更正地積は、五五万三五三四・〇七平方メートル、換地の合計は、三三万三五九九・九一平方メートル。)。

四  被告の主張に対する原告の反論及び主張

1  本件処分と仮換地交換願いとの不一致について

(一) 仮換地交換の合意に至る経緯等

本件仮換地交換の話は、新一開発の申込によって始まった。新一開発の代表取締役福原政二郎は、昭和五六年三月一九日、原告明に対し、三三街区か一〇街区のうち原告明の希望する場所と原告らの仮換地との交換を申し出たので、原告明は、最も利用価値の高い駅前広場側を指定した。当初は、駅前広場側のさらに駅に近い方の角地か広場入口の角地かの決定を留保しており、同月二一日に、駅前広場入口の角地(広場側の北東の角地、すなわち乙地)を希望し、新一開発もこれに応じたものである。

(二) 仮換地交換の合意が乙地を目的とすることについて

被告は、本件土地区画整理事業につき新一開発と業務代行契約を締結しており、仮換地設計や換地計画についても、新一開発が権限を有し、作業はすべて新一開発の従業員が担当していたのであるから、原告明の合意した交換の場所が乙地であることは、被告としても知りうる立場にあったはずである。

原告明が三四街区の仮換地Aを取得したのは、商業用地を求めたためであり、三三街区のどこでも希望する場所と交換すると言われたときに、商業立地として駅前広場に面する土地を選択するのは当然である。わざわざ立地条件の劣る甲地を選ぶはずがない。

仮換地交換の話が出たときに使われた図面や新一開発の仮換地交換願い書添付の図面(乙三)をはじめ、本件に関する多くの図面は、いずれも駅が図面上方にあたるものとして記載されている。原告らの仮換地交換願い書添付の図面(乙二)も、その数字の方向から(図面を横長に)見て上方が駅側、右側が駅前広場側と考えて、原告らは、駅前広場側の土地として、当該場所を示したものである。

仮換地交換の合意の後、新一開発は、原告明に対し、駐車場料金を支払っているが、新一開発経営の駐車場として使われているのは駅前広場側であり、ガード側は駐車場として使われていないから、新一開発も交換の場所が駅前広場側であると認識していたはずである。

原告明は、本件仮換地交換の合意の後、銀行と出店に関する話をし、換地計画の縦覧があるまで、駅前広場側の土地を取得したと信じて疑わなかった。

昭和五七年四月二〇日、保留地だった土地の大部分を新一開発から買い取ることになっていた株式会社熊谷組、新一開発及び原告明との間で、原告が仮換地の指定を受けた甲地を駅前広場側の土地と交換する旨の協議が成立しているが、これは、交換に供された仮換地Bが駅前広場であるとの原告らの主張が正しいことを前提として、解決案が提示されたものである。

(三) 錯誤について

仮に交換の対象地が甲地であったとするならば、原告明は、原告らの仮換地Aを乙地と交換するものと誤信していたのであるから、本件仮換地交換の合意は、要素の錯誤により無効である。そして、それを前提とする仮換地交換願いも無効である。

2  照応原則違反について

(一) 甲地は、宅地としての価値が極めて低く、従前地と照応しないというべきであるから、本件処分は、従前地との照応を欠き、土地区画整理法八九条一項に違反する。

(二) 従前地及び換地(甲地)の状況

(1) 従前地

従前地は、二辺が道路に接する土地であった。周囲は山林であったが、他の本件事業地の大部分も同様であった。

(2) 換地(甲地)

<1> 甲地は、不整形地であり、利用するうえで無駄な部分を生じるばかりでなく、JR列車の走行による騒音が障害になり、利用が制限される。

甲地は、一辺しか道路に面しておらず、しかも、その南側道路は、西側のJRガードのところで大きく曲がっていて見通しが悪い。また、車道と歩道がガードレールによって分離されているため、甲地は、歩道だけに接する土地としての価値しかない。その歩道は、実質一・五メートルであり、道路の横断は禁止されていて、通行者は極めて少ない。さらに、甲地と道路面とは一メートルの段差があるので、道路に車を止めて荷物の積卸しをすることができないなど、土地の利用は著しく妨げられる。

甲地の西側には、これに隣接して駐輪場が設置されており、西側に道路がないため、駅に行くには東側の道路に出て迂回する以外にない。したがって、甲地が従前地に比して駅への近接度が高いとは言えない。この駐輪場は換地処分後に設置されたものではあるが、換地計画の時期には既に設置が予定されていたものである。

甲地の前面には、JRの六メーターを越える擁壁があり、見通し、日照が悪い。

<2> 被告の事業施行により甲地周辺の利用価値が増進したことは、全権利者に共通の利益であり、原告らのみがその利益を受けているものではない。また、本件事業施行区域のうち宅地の占める割合は一〇パーセントにすぎず、ほかは山林、農地であって、従前地が格別劣等な土地であったわけではない。

<3> 本件事業施行地区は、東戸塚駅の西側区域より低く、甲地付近はもっとも低い土地であるから、駅の西側から川の水や排水が集中し、浸水を受ける虞がある。

(三) 甲地は、事業計画に基づいて決定されたものではなく、仮換地交換願いを受けて指定されたものであって、照応の点については十分な考慮が払われていない。

また、路線価評価方式は絶対的なものではなく、この係数による価値のみをもって照応の有無を判断することはできない。被告は甲地につき、補正すべき要件がないというが、甲地は明らかに不整形、高低差、奥行長など、修正の対象となる要素が存在している。

甲地は、隣地である戸塚区品濃町五一六―二、同五一六―五と一体的に利用する場合には、それ相当の評価が可能であるが、単独での利用価値は著しく劣る。

(四) 清算金の徴収額が大きく、減歩率の低いことが利益になっていない。

五  争点

1  本件仮換地交換の合意において、交換の目的とされた仮換地Bは甲地か乙地か。また、この点につき原告らに錯誤はあったか。

2  本件処分が照応の原則に違反するか。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  原告明が提出した仮換地交換願い書(乙二)の添付図面には、方位及び縮尺が示されていないが、別図四(右添付図面と同じ図面)のα部分の角の形(他の二辺に対する傾き)とβ部分の角の形(同)には明らかな差異があり、これを換地図(乙二〇)等と照合すれば、仮換地交換願い書の添付図面に三九六・〇〇の数字で示された部分は、甲地であることが図面上明白である。

そして、仮換地交換願いは、本件仮換地交換の合意を前提として行われたものであるから、右合意は、原告らの仮換地Aと甲地とを交換する旨の合意であったと推認することができる。原告らは、これに反して、交換の対象地を乙地とする旨の意思表示をしたとの事実を裏付けるべきいくつかの間接事実を立証しようとし、また、原告明及び同斉藤達夫(以下「原告達夫」という。)も、右主張に沿う供述をするが、いまだ右推定を動揺させることに成功したものということはできない。

2  しかし、原告明は、かねてから東戸塚駅前の開発に興味を持っており、被告と事業代行契約(甲四の六)を締結した新一開発の事務所にも出入りし、新一開発の代表取締役福原政二郎とも懇意であった(原告明、証人福原弘)。原告明が東戸塚の土地を購入したのも、商業用地を求めるためであり、同人は、駅から近く、人通りが期待でき、人目につく場所を望んでいた。そして、仮換地交換の合意及び仮換地交換願いをした後、乙地について富士銀行の支店誘致の話が出た際には、原告明と原告達夫が富士銀行の担当者と話し合いをしたこともあった(原告明、原告達夫)。

また、原告明は、昭和五七年三月換地計画が縦覧された際、換地された場所が甲地であることを発見し、直ちに異議を申し立てる手続を採ると共に、福原政二郎や福原弘などの新一開発関係者や被告の関係者に会って抗議等を行った(原告明、原告達夫)。そして、昭和五七年四月二〇日、熊谷組の駅前広場側の土地と甲地とを交換する旨の話がされた(甲一二の一、原告明、原告達夫、証人白木原俊介、同福原弘)。

右の各事実に加えて、商業用地を求めている者にとっては、通常、駅前広場側の乙地とJRガード側の甲地とでは、乙地のほうがより好ましい土地であると考えられることを考慮すれば、原告らは、本件仮換地交換の合意に当たり、甲地を乙地と誤信していた可能性が高いといわざるを得ない。

3  ところで、換地処分は、事業施行者が、換地及び従前地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように換地計画を定め、これに基づいて行う行政処分であって、所有権その他の権利を有する者が換地の位置、範囲に関する合意をし、この合意による換地を求める旨申し出たからといって、かかる合意に拘束される理由は全くない。すなわち、事業施行者は、このような申し出がなされても、その趣旨に沿った換地処分をする必要はなく、また逆に、その申し出の趣旨を尊重しようとする場合も、施行区域内の特定の数筆の土地につき所有権その他の権利を有する者全員が、他の土地の換地に影響を及ぼさない限度内において、右数筆の土地に対する換地の位置、範囲に関する合意をしたときは、公益に反せず事業施行上支障を生じないかぎり、土地区画整理法八九条一項所定の基準によることなく、右合意されたところに従って右各土地の換地を定めることができるというに止まる。

したがって、事業施行者が偶々右のような申し出の趣旨に沿って換地処分をした場合においても、そのことだけで当然に換地処分が適法になるわけではなく、また、その前提をなす当該合意が無効であるとの理由だけで違法になるわけでもない。換地処分は、かかる場合においても、照応原則に適合するかぎり適法というべきであるから、本件仮換地交換の合意が無効であることだけを理由に、本件処分の違法をいう原告らの主張は、当を得ない。

二  争点2について

1  従前地及び換地の状況について(乙四の四、一二、三一、三七、証人河野久雄、同福原弘)

(一) 従前地

従前地の地目は田であり、公簿上の面積は三二〇平方メートルであるが、更正地積(実測面積)は、四四四・二四平方メートルであった。

従前地は、南西側が巾員約二・五メートルの道路に面する五角形の土地であり、東戸塚駅東方約三〇〇メートルの位置にあった。

段々田であり、農耕地として利用されていて、上下水道、都市ガス等の設備はなかった。

(二) 換地(甲地)

甲地は、面積三九六平方メートルであり、梯形に近い四角形である。東戸塚駅前広場から約六〇メートルの距離にある。上下水道は整っており、都市ガスも引き込みやすい状態になっている。

甲地南西側は、巾員約一三メートルの道路に面している。本件処分当時は、西側に横浜市の管理する巾員五・六メートルの道路があり、これを利用すれば容易に東戸塚駅に行くことができた。その後、横浜市が右道路を廃止し、駐輪場を設置したため、西側から駅に行くことができなくなり、東側の道路を迂回しなければならなくなったが、それでも、甲地から駅までは、大人が普通に歩いて三分程度である。

甲地は、商業地域に属しており、相当の高層ビル、高層マンション等を建築することが可能である。

2  甲地の利用増進の状況について(証人河野、同福原弘)

周囲の商店街から日常生活上の物資を入手する利便性が増しており、環境条件も従前地に比較して相当上昇している。

3  権利価額について

(一) 従前地及び甲地の権利価額の算定は、東戸塚品濃中央土地区画整理事業の土地評価基準に基づき、路線価式評価法によっている。右評価法による路線価は、金額ではなく指数で表示する。すなわち、土地区画整理事業施行前の路線価の最大値を一〇〇〇個とし、同事業の施行前、施行後を通じてこれと比較換算した指数を各路線に表示する(乙二六ないし二八、証人河野)。

(二) 原告ら所有の従前地は、路線価指数八四九個である(乙二九ないし三一)。そして、土地評価基準に基づき補正すべき要件がないので、これがそのまま従前地の単位評定指数となり(乙三一)、この単位評定指数を従前地の更正地積四四四・二四平方メートルに乗じて、従前地全部の評定指数三七万七一五九個を算定し、これに比例率(区画整理後の土地全体の評価額と区画整理前の土地全体の評価額との比率。本件においては、整理後評定指数総計四億八一五〇万三八四五を整理前評定指数総計四億六三三二万八八三一で除した一・〇三九二二七〇三〇である。乙三二)を乗じて、従前地の比例指数三九万一九五四個を算出した。

比例指数を金額に換算するため、当地区の指数一個当たり価格一九円(乙三三)を従前地の比例指数に乗じて、従前地の権利価額七四四万七一二六円が算出された(乙四の四、証人河野)。

(三) 甲地に面する一三メートル道路の路線価は、一七〇二個であり(乙三四ないし三六)、画地評価に当たっては、土地評価基準上補正すべき部分がないので、これがそのまま画地(換地)の単位評定指数となり(乙三六)、これに換地面積三九六平方メートルを乗じ、評定指数六七万三九九二個を算出した。これに指数一個の価格一九円を乗じて、換地の権利価額は一二八〇万五八四八円となる(乙四の四、証人河野)。

4  減歩率について

原告らの換地の減歩率は、従前地の更正地積四四四・二四平方メートルのところ、三九六平方メートルの土地が換地されたため、一〇・九パーセント弱である。平均減歩率は、三九・七パーセントである(事業施行地全体の更正地積は、五五万三五三四・〇七平方メートル、換地の合計は、三三万三五九九・九一平方メートルである。乙三二、証人河野)。

5  以上の点を総合考慮すれば、本件処分は、照応原則に適合するものというべきである。

なお、原告らは、甲地の近くを流れる川上川が氾濫する虞があるというが、川上川は、横浜市の指導により、道路の下にカルバートボックスというコンクリート製の箱状のものが埋設され、その中を流れるので、氾濫の虞はない(証人福原弘)。

また、甲地は、隣接道路と一メートルほどの段差があり、その道路は急カーブをしており(甲八の一ないし三、原告達夫)、原告らは、甲地からの車の出し入れや駐停車が困難であること、人通りが期待できないこと、鋭角部分を含むため使いづらいこと等、全体として利用度が大変劣ると主張する。しかし、土地評価基準においても、高低差二メートル未満は補正不要とされていること(乙二六)や、甲地が三三街区の中では駅から離れた所に位置するといっても、甲地を含む三三街区の南側部分はまさに駅前であり、駅に極めて近接している場所であること、原告らの不満は、仮換地Aと比較した場合あるいは交換を期待した乙地と比較した場合の不満であるにすぎず、従前地と比較した場合の利便性は明らかに増加していること等を考慮すれば、甲地の利用度が大変劣るとまでいうことはできない。

また、原告らは、甲地が飛び換地であることにも不満を述べるが、もともと原告らは商業用地を求めていた者であるうえ、三三街区内の土地(それが甲地であるか乙地であるかはともかく)と仮換地Aを交換する意思をもっていたのであるから、この点も、さして問題とするに足りない。

さらに、原告らは、新一開発と熊谷組が本件処分によって有利な場所を占めていること、新一開発の代表取締役福原政二郎は弁護士であるのにもかかわらず、交換の対象地をすり替えたかのような疑いを抱かせる行動をしたことに不満があるとするが、このことが直ちに本件処分を違法ならしめるものということはできない。

三  よって、本件処分は適法であり、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐久間重吉 辻次郎 伊藤敏孝)

別図一~四<省略>

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